前回からの続きです。
■「暴力性」なんてワードを用いているのも、やはりダメ
これは、ぼざろ、またはアニメの話からは離れますが。
「恋愛を扱うドラマが描かれるときって、『恋愛しないと成長しない』とか、『恋で人生の全てが変わる』みたいな、恋愛が人生において最も重要なものとして描きがちというか、その考え方を押し付ける暴力性があるのではないかと、以前から気になっていたんです」
いや、個人的にはアンチ恋愛至上主義ですし、正直に言えば恋愛至上主義的なドラマ(なんてほぼ視聴したことないけど)の事は薄っすら馬鹿にしてる。また、恋愛至上主義を否定する恋愛ドラマを描いたって、もちろんよい。
…もちろんよいのだけれど、それと『恋愛ドラマは「暴力性」がある』みたいな言説とはまた別問題なんですよ。
「キャンセル・カルチャー」はなぜ問題なのか…? ネット時代特有の「意外な悪影響」
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というかまず「暴力性」なるワードが雑なんよ。“「表現」は、『価値観の自由競争(市場)』における競合によるものであるならば、その意図の有無に関わらず、人を傷つけてもよい”くらい前提にしておいてほしい。
2021/06/26 17:25
ちゃんとこういう前提、踏まえてますか?っていう話なんです。
例えば「手に汗握る!バイオレンスアクション!」みたいな売り文句における“バイオレンス”(=暴力)は、大よそポジティブな意味でしょう。ですので、一概に「暴力性」がネガティブなワードだとは決めつけられない。
でも、吉田氏が用いている「暴力性」はそうではないですよね?
それは人を(特にマイノリティを)傷つけるものだ、よくないものだ、というニュアンスが含まれているわけですよね?
ついでに、このブコメの言及先の、「キャンセルカルチャー」に関する記事からも、少し気になる一文を引用しておきましょうか。
そして、「意見のなかにはマイノリティに対する暴力性が含まれるものがある」という認識は、そのような意見を議論の場で取り上げないことや、暴力性を含む意見を持つ人を議論の場から排除するという対応を正当化したのである。
https://gendai.media/articles/-/84505
これは“アカデミア”についての話ですが、エンタメについても大体は同じ事が言えるでしょう。
もちろん吉田氏はそこまで意識していないのかもしれない。しかし、であれば尚更の事、先の「性的搾取」もそうですが、この「暴力性」にしても、それらのワードがもつ『規範的に「市場」から排除する力』という、吉田氏自身の言動の「暴力性」に無頓着すぎるんですよ。
まぁ、もしそれを理解・意識したうえで仰っていたというのであれば、それはそれで邪悪すぎるんですけども。
■「お母さん保守(年齢的パターナリズム)」的思考が滲み出てるあたりもヤバい
「現実的に考えても、ギターを弾きながら胸が不自然に揺れ続けるみたいなことはないわけですし、そういう描写があったら私は幼い息子にその作品を見せるのを躊躇する。自分の子どもに見せられるかどうか、というのは大事にしている基準です」
これね。
まず、「ギターを弾きながら胸が不自然に揺れ続ける」みたいなバンドアニメがすぐには思い浮かばない*1のですが、それはともかくとして、幼い息子さんがいくつかは存じ上げませんけど、それは結局かなり「保守」色の強い、女児向けアニメ的な基準を、さも「アニメ脚本家」の矜持として披露されているだけですよね。
こちらは別のインタビュー記事。
ashita.biglobe.co.jp
吉田さんが脚本を手がけられた『ぼっち・ざ・ろっく!』(2022年)では、原作にあった“女性キャラクターの胸を笑いに変える”ような描写を割愛されたと、小説家・大前粟生さんとの対談(2023年実施)で拝見しました。本作も同じく10代の少女が主人公ですが、制作にあたって特に意識された点があれば教えていただけますか。
前橋ウィッチーズでは意図していない過剰な可愛さは描かないようにしました。これは監督とも話し合った点ですが、アニメでは女の子が走ると、意図せず内股で描かれることがありますよね。無意識のうちに当たり前にされている部分を再度この作品ではどうするかを話し合いました。意識してやるかやらないかの違いは非常に大きいと思っています。
この記事では、まるで“当たり前”を疑う革新者の様な扱いをされていますが*2、実際は前述の通り、女児向けアニメ的な「保守」でしかない。
「前橋ウィッチーズ」のメインキャラクターたちのスタイルも、かなり女児向けアニメのそれに近いですよね*3。
“当たり前”を疑うのであればむしろ逆、つまり例えば、女児向けアニメのメインに巨乳キャラを出してもよいのではないか、乳揺れを実装してもよいのではないか、そういう方向性ですべきでしょう。実際、その「レギュレーション」*4に確固たる根拠などないのですから。
疑うなら、「自由」ではなく「規制」であるべきです。
そもそも、仮に年齢一桁の息子さんであっても、当然おっぱいに興味を持ったって良いワケで、さらに当然その興味に従って胸が揺れるアニメを嗜んだっていいワケですよ。何も問題はない。
旧来型の母親の感情として躊躇するのは仕方がないとしても、自身の「お母さん保守(年齢的パターナリズム)」的思考は自覚してほしいですし、また行為としての躊躇(つまり視聴制限)にまでは至らないよう、その思考を鎮めるべきでしょう。
以前、話題になった件も込みで
posfie.com
どうしても、Wokeism的な思想矯正志向が垣間見えてしまうんですよね…*5。
■これは「表現規制」論者と判断されても仕方がないレベルの発言だわ…
「99%の人が大丈夫でも、1%の過激な人が何かをしてしまうことで、アニメ文化が途絶える恐怖を感じています。様々な作品があるからこそ、ルールや節度、倫理観を保っていかなくてはいけない。過激な作品やR18まで振り切ったものがあってもいいですし、やると決めれば私も思いっきりそうした作品に関わることもあると思います。でもその場合は、しっかりと未成年が見られないような配慮が必要です」
「自分で選んで買う小説や演劇などと違って、より手軽に見れる媒体の場合は表現についてもっと考えなくてはいけないと思いますし、その考え方がもっとアニメ業界に浸透したらいいなとも思います」
このトークショー記事において、最もひどい発言はここかもしれない。「ノイズ」や「搾取」よりも。
“99%の人が大丈夫でも、1%の過激な人が何かをしてしまうことで、アニメ文化が途絶える恐怖を感じています。”の一文を最初に見たとき、いわゆる「ネトフェミ」の類による「放火」案件について述べてらっしゃるのかと思ったのですが、まさかの「表現する側」の事を仰っていたとは…。
まるで「“ルールや節度、倫理観”を守らない表現者がいるせいで、アニメ文化が途絶えるかもしれない」との仰り様。仮に“アニメ文化が途絶える”を「法規制される」や「外圧で潰される」の意味で用いているのであれば、それは「自主規制しなければ法規制」論のバリエーションでしかありません。
法規制の話ではなく、前述の「ネトフェミ」を含めた、いわば「Social Justice Wokeism」の手による「放火」で“アニメ文化が途絶える”という話であれば、それを「表現する側」のせいにするというのは、もう完全に視座がおかしいよねとしか言い様がありません。
どのみち、「表現規制」論者と判断されても仕方がないレベルの発言です。
加えて、ここでも「お母さん保守(年齢的パターナリズム)」的思想が漏れ出ていますしね。本当にひどい。
大体「R18」にしたって、そんな確たる根拠のある「規制」ではないでしょうに。
■吉田恵里香氏の問題発言もひどいが、KAI-YOUの記事がそのひどさを強化している
吉田氏の発言は確かにひどい。ただ、このKAI-YOUの記事が強化バフをかけているせいで、よりひどく見えている…というところは、確かにあります。
例えばそれは、タイトルにもある「加害性」というワードであり、または以下のような地の文の数々です。
今回のトークイベントで、吉田恵里香さんから特に強い抵抗感を示すものとして言及されたのは「キャラが性的に消費されること」だ。
特に『前橋ウィッチーズ』のような10代の女の子たちを描く作品の場合、現実に置き換えると未成年を性的に搾取するということになるといえば、問題の深刻さは明らかだ。
アニメには長年の歴史から生まれた多くのテンプレート的な表現がある。それ自体の是非はともかく、作品や時代に合わせて適切か否かを模索する思考は、今後より重要になりそうだ。
子どもも気軽にストリーミングサービスにアクセスできる現代において、ジャンル分けやゾーニングはもっと重要視されるべきと訴える。
吉田氏のWokeism的な思想をそのまま垂れ流すどころか、強化してお出ししてしまっている。もちろん、吉田氏の発言を捻じ曲げているとまでは思っていません*6。しかし、吉田氏の考えを汲んだうえで、インパクトの強い言葉を出力してしまっている。いわゆる「性的消費」とか。そして全体的に、よりやばいニュアンスの記事になってしまっている。
“関係各所に「なんでも知ってるな」と称される知性と感性”を持ったライターさん*7が、無批判的に“ゾーニング”というワードを使用する。このライターさんは、「ゾーニング=表現規制」だという事を未だにご存じなかったのでしょうか。
ところでこのpost、
執筆しました🌸
目が覚めるお言葉の数々に大頷きと大感服で書かせていただいております🐅
https://x.com/oresamax/status/1967153405539037217
うーん?本気で「お目覚め」したのか、それとも逆に吉田氏を小馬鹿にしているのか…。
■KAI-YOU編集長さんこそ、ちゃんと読んでいますか?
次に前回も言及したKAI-YOU編集長、恩田氏のpost。
https://x.com/ondarion/status/1967783597097750981
この記事で言う“ノイズ”とは、深夜アニメ等でテンプレート化している表現(女の子たちが互いの胸の大きさについて言及し合う描写等)を指しています。
そんなことは、多分みんな知ってる。あと、水風呂で裸になるシーンも、吉田氏は「ノイズ」だと言ってる。
その点が『ぼっち・ざ・ろっく!』という作品が持つテーマを伝えるために不必要な要素(ノイズ)であることは、『ぼっち・ざ・ろっく!』を観た私としては納得できました。また、吉田さんの発言から、表現や作品の価値や幅を狭めようという意図は一切感じませんでした。むしろ作品の持つポテンシャルを多くの人に知ってもらおうという、脚本家の努力や原作への敬意を強く感じた部分です。
これが全くの嘘である事は、前回の記事で指摘済み。
上記について、記事を最後まで読んでいただけた方にはご理解していただけると信じておりますが、Xでのポストで私が要点をまとめるに際して、真意の伝え方が不十分だった点があったと反省しております。
まるで、吉田氏の発言を批判した読者が誤解・誤読をしているかのような口ぶりである。
しかし実際は、熟読すればするほど、その発言の数々のひどさが明確になっていくことは既に述べてきた通りです。
恩田氏こそ、ちゃんとお読みになったのだろうか…?
■KAI-YOUの偉い人、その発言から見えてくる「オタク系メディア」の問題
そして最後に最もひどいのが、KAI-YOUのCEO(…らしい https://x.com/TYonemura)のこちら。既にpostは削除され、消えているようです。
そ ん な 話 じ ゃ な い だ ろ う 。
というかまず、急に“アイデンティティ”とか、“(社会的)ケア”とかいう概念が飛び出してきてて混乱する。…というか、もっと言えば「これ、やばやばWokeism信仰どっぷりじゃね?」という精神セキュリティアラートが鳴る。
あと、“依り代”って何。“オタク”は霊か何かなんですかね?(たぶん拠り所って言いたかったんだと思うけど)
仮に、「未成年キャラのえちえち描写」をアイデンティティの拠り所にしていたとして、何が問題なのだろうか。
いやそもそも、“アイデンティティの拠り所”なんていう重い理由がなければならないのだろうか。軽い趣味として嗜むのではいけないのだろうか。
まさか、軽い趣味の対象であるならば“削除”してもいいだろと、そう仰るつもりなのだろうか。アイデンティティは尊重すべきだが、趣味などはぞんざいに扱っても構わないだろうと、そう仰るつもりなのだろうか。
逆に言えば、アイデンティティは尊重すべきものだから、尊重に値しないそれはアイデンティティとは認められないという事だろうか。
「社会的なケア」とやらが具体的に何を指すのかは存じ上げませんが、「未成年キャラのえちえち描写」に需要があるならば、当然その需要は満たされるべきでしょう。そんな事すら理解できていないのだろうか。
“そう捉えていいのでしょうか”という言い回しにも、姑息さを感じます。
結局、このpostは「お前、ゲームなんてものをアイデンティティにしてるの?お前の事、本当にそういう奴だと思ってもいいの?」みたいな、昭和の残滓のようなそれと同類の発言に過ぎません。
むしろ、オタク系の話題を多く取り扱う「メディア」が、その偉い人が、未だに「ポリコレはNG」という事すらコンセンサスにできていないというのは、非常にマズイでしょうに。本当に大丈夫なのだろうか。
恐らくこれは、KAI-YOUだけの問題ではないでしょう。
「人工知能学会表紙」の件から10年以上、「レイプレイ」の件から数えれば15年以上経ちましたが、「表現の自由」に関する問題について「メディア」の反応は鈍く、冷ややかだったと言わざるを得ません。ようやく最近になって、いわゆる「クレカ規制」の件で重い腰を上げ始めた、という感じでしょうか。
それまで主に戦ってきたのは、(ざっくり言えば)ただのネット民でしかない「オタク」たちでした*8。結果としてはご存じの通り、山田太郎氏や赤松健氏を国政の場に送り込む事に成功し、それを含めて「オタク」は、ある程度の発言力を持つことはできたかもしれません(決して余裕があるわけではないが)。
しかし、「メディア」が早く動いていれば、具体的に言うなら例えば「ポリコレ」の害毒性を報じていれば、「放火魔」たちのその振る舞いを報じていれば、もっと流れは違ったのではないでしょうか。
■身も蓋もない結論
「Social Justice Wokeism」こそが本当のノイズ。はっきりわかんだね。
結果としてはそうなりましたよね。
吉田恵里香氏による発信は…恐らく止まらないんでしょう。少なくともしばらくは。持ち上げてくる界隈もあるようですし。それはもう、ご自由になさってください、としか言い様がないです。
アニメ視聴の際、お名前を拝見して、その発信がチラついてノイズになる事は多分にあるとは思います。ですが、まぁそのへんはスキャンダルを食らった声優さんとかと同じなので…。
一方、「メディア」はきちんと反省できるか。今後どうするか、どうなるかという意味では、こちらの方が重要でしょう。さて、どうされますか?KAI-YOUさん。
*1:「ロックは淑女の嗜みでして」のキーボード担当の巨乳ネタはあったかな?
*2:まぁ記者が、そういう「物語」を描きたかったというのはあるだろうが。
*3:真アズは除く。
*4:明文化されているか否かは知らんが。
*5:とはいえ、これは息子さんのジェンダー的な矯正に失敗しているエピソードなので、「虐待」の様な強い言葉を使うほどではない事も窺えるが。
*6:トークショーが有料イベントであった事を考慮すると、記事の執筆・公開に際して恐らくスジは通してるだろうし、吉田氏のチェックが入っている可能性も高いと思う。実際、「加害性」とは言ってなくとも「暴力性」とは言ってるわけで。
*7:https://kai-you.net/author/tiisaikuma
*8:ざっくりなので、著名人が一人もいなかったとは言ってない。